「雪が踊っている」
北海道で暮らしていた頃、私にとって雪はとても身近な存在でした。
雪は、地方によって降り方がだいぶ違います。
関東甲信越以南に降る雪は、湿った重いはい雪(灰雪)。
大きさも大きいので、ゆっくり舞うように落ちてきます。
しかし北海道に降る雪は、乾いて軽く細かいこな雪。
小さいので、風に吹かれてふわぁ〜っと落ちてきます。
落ちても解けずに、こんころこんこんっと転がるので、見てると面白いです。パウダースノーです。
湿度と温度の具合によって、雪の結晶が出来上がるプロセスで大きさや重さが決まってくるそうです。
この曲、楽譜の上では、冒頭のミファソラからずっとスタッカートが付いています。
ペダルの指示は特に無いので、そのままペダルを踏まずに弾くと、
ぽてぽてぽてぽて ぽてぽてぽてぽて
と雪がさくさく落ちてくるイメージが見える気がします。
というか、あまり雪っぽく聴こえないかもしれません。私はそう。
ペダルをけっこう踏んで、
たららら たららら たらたらたらたら たらたらたらたら
はらひらほろひれ はらひらほろひれ
雪ですねえ。ちょっと湿っぽい本州の雪です。
この曲を最初に私が聴いたのは、フランスの女性ピアニスト、モニク・アースの演奏でした。
youtubeはありませんが、モニク・アースも、雪質はミケランジェリと近いような感じ、もう少し滑らかで、深くペダルを踏んでいるような気がします。
やっぱりちょっと女性的な感じがします。曲そのものも、女性に合う気がします。
ミケランジェリはイタリアの人。
アースはパリジェンヌ。
雪質的に近かったりするのかな。
最後はギーゼキング。残念ながらyoutubeにありませんでした。
ギーゼキングはペダルほとんど踏んでないです。ペダル踏まずにきっちりと聴かせます。
こつこつこつこつ こつこつこつこつ
雪質的には、北海道でしょうか。ふわふわではありません。ころころ転がっています。
でも正直言って、あんまり雪のイメージが湧いてきません。なにかの幾何学模様が見えるような、そんな感じ。
私だけかもしれませんが。なんというか、ミケランジェリやアースに比べて、映像がシンプルで非常にくっきりしている気がします。
ギーゼキングはドイツですが、どんな方だったのでしょう。
名前からして、なんとなく強そうな気がしますが。
ドビュッシーがこの曲を作曲したのは、長女クロード・エマが生まれた後。40代半ばの頃のようです。娘さんをほんっとに溺愛していたようですね。
話がそれますが、オリビア・ニュートン・ジョンも、娘さんが生まれた後、娘さんのために歌(タイトル忘れた)を作っていて、歌詞の中で「クロエ(娘さんの名前)」と呼びかけています。
オリビアの曲は娘への慈しみに満ちていて、ゆったり温かいです。
ドビュッシーがエマに作った「子供の領分」の多くの曲は、例えば「パルナッスム博士」や「ゾウさん」「ケークウォーク」なんかは、子供が聴いて喜びそうに面白おかしかったり、リズミカル。
しかしこの「雪」は、子供に聴かせるにしては、ちょっと怖い雰囲気のある曲だと思います。怖い昔話を読み聞かせるような気持ちで、作曲したのかもしれません。
さてこの曲、だんだんと、ただの雪ではなくなります。
徐々に雰囲気がやばくなってきます。ひとけのない山小屋の夜。雪に風が加わって吹雪になり、1方向からだけでなく、右から左から、上から下から雪が吹きつけてきます。頬は凍りつきそうに痛いです。
と、吹き荒れる雪の中に、すーっと雪女が何人も現れてきて、
ハハハハハハハハハハーハーハー、ハーハーハーハー
(ホホホホかもしれない)
と笑い始めます。
雪女は日本独自のものだと思っていたんですが、もしかしたらヨーロッパにもあるのかもしれません。
次から次へと雪女が現れては消えしたところで、突如スフォルツァンドで
トタタタタタタタ トタタタタタタタ
と、まるで激しく扉を叩くような音。誰か来たみたいです。
雪女でしょうか?
扉を開けてみたら・・・・
誰もいませんでした。
空を見上げると、少し吹雪が収まって、またこな雪が、
はらほろひれはら はらほろひれはら
と舞い落ちてきました。そうして雪女はその余韻を残しながら、
ふっ
と消えて、雪がやみます。
というわけで、ドビュッシーは、実は日本昔話の雪女をどこかで知り、そこからインスピレーションを得た可能性もあります。
一度クロードと日本酒を飲み交わしながら聞いてみたいものです。
スノーマンの奥さんかい?』
なんて言われそうだ。
by ユング