シューマンとの出会い




今日、シューマンのLPレコードを聴きました。

これまで、いくつかの演奏会でシューマンを聴く機会がありましたが、心から聴き惚れたことが一度もありませんでした。これまで聴いた曲がなんだったかすら忘れるくらい。音楽がどうこうよりも、「シューマン」という人に興味が持てなかったことが、一番の原因だったろうと思うのですが、とにかく心に残らない。そもそもこの作曲家がどういう人なのか、いつごろのどこに住んでいた人なのかすら、ほとんど知らなかったのです。


しかし最近、私の大好きなブラームスの伝記を読み、シューマンブラームスの人生に大きな影響を与えたドイツの先人であることを知りました。そこでシューマンの伝記も読み、さらに興味が湧いてきたというわけです。


今日聴いたのは、ケンプが1972年に録音したグラモフォンのブラームスシューマン。B面がシューマンになっています。





f:id:noraneko_bikke:20101010235809j:image
f:id:noraneko_bikke:20101010235810j:image







●3つのロマンス

・第一曲

 出だしからいきなり流れる。こういうところ、ほかの作曲家ではほとんどないような気がします。急に曲の途中から始まるような違和感を覚えます。私はシューマンのこういうところがあまり好きになれなかったのかなあ。今日会ったばかりのそれほど親しくない人にドッと深い悩みを打ち明けられるような感じがするんですよね。


・第二曲

 これがこのレコードの中で一番好きです。癒しの音楽。感覚としては、ベートーヴェンの悲愴ソナタの第二楽章に近いでしょうか。激しい第一楽章の後に、疲れをいやすかのようなゆったりした旋律。

 あと、ちょっと感じたのは、この楽章の主旋律はブラームスのラプソディOp.79-1の一部(第二主題かな?)に少し似ています。

・第三曲

 リズミカル。歯切れが良い始まりで、少し子供っぽいなあという印象なんですが、どこかベートーヴェン風というか、少し古風な印象を受けます。ところどころ、とても転調が心地よいところがあったり、これはブラームスの後年の小品にあるような、美しいと言うよりほかない素晴らしい旋律が現れたり。部分的にとても気に入りました。


アラベスク

 小川がさらさら流れるような流麗な音色に、時折川面に光る陽光の反映のような、頬をなでる少し冷たい風のような旋律が入り交じる。これも気持ちいいですねえ。このレコードの中でどれを弾きたいかと聞かれたら、多分アラベスクと答えるでしょう。




なんとなくどれも自然の情景から着想してそうな気がしますが、とにかく優しさを感じます。ひたすら優しいです。悪く言うと、ベートーヴェンから厳しさを抜いたような感じでしょうか。でも物足りないわけでもない。とにかく心地よく癒される。シューマンの他の曲もこうなんでしょうか。いろいろ聴いてみたくなってきました。






f:id:noraneko_bikke:20101010235811j:image






そんなわけで、今日だけでこのレコードを5回繰り返して聴きました。すり切れてしまうので、そろそろカセットテープに録音しなければと思っています。うちではレコードもカセットも現役です。今日聴いた曲に関しては、これまで私が漠然と持っていたシューマンのイメージとはほど遠く、とても情景豊かで自然の香りのする、私好みの癒しの音楽でした。なぜ今までこの良さに気付かなかったのでしょうね。シューマンは他に「クライスレリアーナ」という名曲があるとか。今度はそれを聴いてみようと思います。


どんなことでも同じですが、物事に対峙するときの精神状態によって、感じ方、受け取り方、記憶の強さが全く違ってくるものです。子供の頃に聴いて好きだった曲が、大人になって久しぶりに聴いてみると「あれ?こんなつまらない曲だっけ?」というようなこともよくあります。逆に、私のシューマンのように、昔はなにが良いのかわからず見向きもしなかったものが、ふとその良さに気づくこともあります。

でも、よく「食わず嫌いは良くない」言いますが、恐らくそれは一面的な根性論だと思います。その時、その良さが分からなかったということは、その時なんど繰り返して賞味しても分からないと思われます。そうそう精神状態が変わるわけではなし、急に大人になるわけでもなし、煎茶の渋みのうまさが分からない子供になんど繰り返し飲ませても、わからないばかりか、恐らく煎茶嫌いになって終わるでしょう。出会いとはそうしたもので、たとい物理的に出会っても、準備が出来ていなければ、本当の精神的な出会いにはならないのです。

だから、よく分からないときにやたらそれに固執するのは良くないですね。それよりは、ちょっと距離を置いて、時間をおいて、もう一度会う時を待つことだと思います。その時自分が前よりも少し成長していれば、あるいは心の準備ができていれば、なにかを掴めるでしょう。

こんなことを感じたシューマンとの出会いでした。






f:id:noraneko_bikke:20101010235808j:image




それとは別に、最近公開された映画「クララ・シューマン 愛の協奏曲」結局公開中に観に行けなかったのですが、私の好きなブラームスを語るには絶対に外せないクララの物語。早くDVDで観たい!!!でもちょっとこのタイトルの邦訳、ダサすぎないか・・・